災い転じて吹くと茄子(?)

 

いやいや、真夜中に突如としてガタガタガタ!ドガンドガンドガン!と家具が舞い始め、耳元では充電中のスマホがキュインキュインと地震を警告する緊急災害アラームを最大音量でまくし立て、唖然として見つめる光景も数秒の内に停電の闇に呑み込まれてしまったら……瞬時に、ああ北海道にも遂に来たのかと理解出来ても、何だか他人事めいていてまるで現実味がない。 自分の身長と同じ位の高さのCDラックが、プラスチックを踏み砕く耳障りな音を立てて倒れて行く。 あのレア物のCDは大丈夫かな? 別にレアでもないけど大好きだったあのCDはどうかな? そんなどうでもいい事ばかりが胸に去来して、漆黒の闇に潜む現実を受け入れようとしない。 数分間ぼんやりと座って、暗闇を見つめていた。 時折思い出したかのように余震に見舞われて、その都度玄関に逃げ込んだ。 最初の本震に比べれば取るに足らないような揺れだったのに、この時になって初めて恐怖を覚えた。 近く、遠く、救急車や消防車のサイレンが慌ただしく行き交っている。 度重なる余震に同調するように、船酔いのような不快感に襲われた。 腕時計を見れば、まだ3時半前。 空が白み始めるまでには、まだ数時間かかる。 暗闇を手探りしてランタンを見付けた。 一緒に置いていた手回し充電の懐中電灯付きラジオは、どこへ滑り落ちて行ったものかどうしても見付からない。 冷蔵庫の扉は全開。 中身も何点か床に転がっていた。 食器棚の引き出しも全開で食器類も見事にシャッフルされていたが、割れていたのは奇跡的に2点だけ。 保温ポットも床に落ちていて、熱湯が少し床を濡らしていた。 フローリングが熱で白濁する事とその対処法を今回初めて知った。 机やTV(台ごと)もそれぞれ元の位置から1mほど移動。 そして一番見るのが怖くて最後に回したギター達……なんと全て無傷でした。 あれだけの激しい揺れを乗り越えて、皆よくぞ無事でいてくれた(泣)。

ぢぢいはこの国が好きで好きで本当に堪らないほど惚れ抜いていますが、遥か太古の昔からこの国は地震・噴火・津波と共に歩んで来ました。 決して克服する事の出来ない苛烈な自然災害の国。 ひとたび事が起これば情け容赦なく数多の生命を呑み込み、暴虐の限りを尽くしてきた国。 でもこの国の先達の誰も、この国を棄てて逃げ出そうとはしませんでした。 この島国を包み込む慈愛が、本当は他のどんな土地よりも遥かに深い事を知っていたから。 自然の抗い難い圧倒的な力は万物への純粋な畏怖と敬虔な信仰、忍耐強さと協調性に満ちた日本人気質を育み続けています。 幾度となく打ちひしがれ数限りなく涙にくれながら、その都度  必ず涙を拭いて立ち上がって来た先達の強さと勇気を、ぢぢいもほんの少しだけ追体験させて貰えたような気がします。

震源地附近の惨状に比べれば札幌の被災状況など遥かに軽微なものでしたが、ぢぢいの住居にほど近い家屋が3棟倒壊した事を考えると、やはりぢぢいだけでなく道民にとっても未体験レベルの震災だったと思います。 皆さんのお見舞いコメントには本当に励まされました。 真っ先に安否確認のコメントを頂いた紅さん、言葉に出来ないほど感謝しています。 本当にありがとうございました。

 

とは言え、それでなくとも慢性化している道内経済の停滞の上に、全道一斉の停電…こんな事態を予測できた人は一人もいなかった筈です。 今回の震災からまだ僅か一日半ですが、停電による経済的な打撃は既に大変な規模に膨れ上がっている上、全面的な復旧までには更に一週間近い時間を要するとなると、やはり暗澹たる気持ちになってしまいます。 今も断続的に続く余震は、震え上がる私達の意識にどんな啓示を与えようとしているのでしょうか。